1月15日に話題となったキーワードは 「ベテルギウス」 です。
オリオン座の一等星ベテルギウスが「今にも超新星爆発を起こすのでは」と再び注目を集めています。最新研究では、星のすぐそばを回る伴星シワルハの存在が明るさの不思議な変化を説明できると示されました。一方で、爆発が人類の時代に起きるかは不確実で、地球への影響も限られると考えられていますが……
何が起きたか
オリオン座の赤い一等星ベテルギウスについて、超新星爆発が近いのではないかという見出しの記事や動画が増えています。同時に、ハッブル宇宙望遠鏡などによる最新研究で、すぐそばを回る伴星の存在が詳しく報告されました。
注目を集めたのはなぜか
「爆発が迫る」という強い言葉と、美しい冬の大三角のイメージが重なり、多くの人が不安や好奇心から検索する状況になりました。伴星発見のニュースも、ベテルギウスの奇妙な明るさの変化と結びつけられています。
ポイント
ベテルギウスは確かに寿命の終盤にいる星ですが、爆発のタイミングは数万年〜十万年以上というスケールで語られています。新たに確認された伴星シワルハは、爆発の「カウントダウン」ではなく、明るさの揺らぎを説明する重要な手がかりになっています。
ざっくり言うと、ベテルギウスは確かにいつか爆発するけれど「明日すぐ」ではなくて、新しく見つかった相棒の星が明るさの変化に関わっていることが分かってきた、という話なのだ。
ベテルギウスとはどんな星か
ベテルギウスは、オリオン座の左肩の位置に輝く赤色超巨星で、シリウスやプロキオンとともに冬の大三角を形づくっています。地球からの距離はおよそ530〜650光年とされていて、私たちが見ている光は中世〜室町時代ごろに放たれたものです。
太陽と比べると、そのスケールは桁違いです。現在の質量は太陽の16〜19倍ほどですが、半径は太陽の750倍前後と推定されており、もし太陽系の中心に置き換えたとすると、小惑星帯のあたりまで飲み込む大きさになります。表面温度は太陽より低いため赤く見えますが、全体としては太陽の数万〜十数万倍も明るいとされています。
ベテルギウスは明るさが規則的に変わる「変光星」でもあります。約400日前後の周期に加えて、さらにおよそ6年程度の長い周期でゆっくり明るくなったり暗くなったりすることが知られてきました。この長い周期の原因が長年の謎だったところに、今回の伴星シワルハの研究結果が登場した形です。
なぜ「爆発が迫る」と言われるのか
赤色超巨星という段階は、重い星が寿命の終わりに近づいた状態です。太陽の数倍以上の質量を持つ恒星は、内部でより重い元素を次々と燃やしながら進化し、最終的には核燃料を使い果たして重力に耐えられなくなります。その結果として起きるのが、きわめて明るい超新星爆発です。
ベテルギウスもこの運命に向かっていると考えられており、「いつかは必ず爆発する星」という意味で、しばしば名前が挙がります。ただし問題は「いつか」のスケールです。最近の研究では、爆発までの時間は少なくとも数万年、ある試算では10万年程度先だろうという結果も示されています。
2019〜2020年にベテルギウスが大きく暗くなった現象が話題になったとき、「ついに前兆が来たのでは」と騒がれました。しかし、その後の解析から、星の表面から大量のガスや塵が放出され、それがちょうど私たちの視線上を覆ったために暗く見えた可能性が高いと説明されています。つまり、印象的な変化ではあったものの、直近の爆発サインと結びつける根拠は薄いというのが現在の理解です。
「爆発が迫る」という言葉は、天文学の長い時間軸を背景にした比喩であって、数年〜数十年という人間の感覚で読むと誤解を生みやすい表現になってしまうのです。
新しく見つかった伴星シワルハとは
ここ数年で大きく進んだのが、ベテルギウスの「相棒」ともいえる伴星の研究です。2025年、ハワイのジェミニ北望遠鏡などの観測から、ベテルギウスのすぐ近くにもうひとつの星が存在する強い証拠が報告されました。この伴星は「シワルハ」と呼ばれ、質量は太陽の1.5倍程度、ベテルギウスの外層のガスの中をおよそ2100日の周期で公転しているとされています。
2026年初めには、ハッブル宇宙望遠鏡など複数の望遠鏡のデータから、シワルハが通った跡がベテルギウスの大気中に「航跡」のような形で残っていることも示されました。水面を進むボートの後ろに波が残るのと同じように、伴星がガスの流れをかき乱し、その痕跡が観測されているイメージです。
この伴星の存在は、ベテルギウスで観測されてきた約6年周期の長い変光をうまく説明できると考えられています。シワルハがベテルギウスの周囲を巡るたびに、濃いガスの筋ができて光を遮ったり、逆にガスを集めて明るく見せたりすることで、ゆっくりした明るさの揺らぎが生まれるというモデルです。
大事なのは、シワルハの発見が「爆発のカウントダウン」を告げるものではなく、ベテルギウスの変わった振る舞いを理解するための新しい手がかりだという点です。
爆発のタイミングと地球への影響
では、仮にベテルギウスが超新星爆発を起こしたとき、地球には何が起きるのでしょうか。
まず距離を考える必要があります。ベテルギウスは地球からおよそ530〜650光年離れていると見積もられており、仮に最新の研究が示すように530光年付近だとしても、生命に深刻なダメージを与える「致命的距離」とされる50光年ほどよりはるかに外側です。近傍の超新星が生態系に影響する可能性はありますが、ベテルギウスはそのゾーンから安全な距離にあると考えられています。
爆発時の見え方としては、数週間から数カ月のあいだ、満月以上に明るく輝き、場合によっては昼間でも肉眼で見えるレベルになると予想されています。その後、徐々に暗くなり、何年もかけて残骸の星雲だけが残るでしょう。
放射線や粒子線についても、距離が十分に離れているため、地球の大気がほとんどを吸収してくれると見られています。オゾン層に多少の影響が出るシナリオを議論する研究はありますが、それでも地球環境を一変させるような規模にはならないという見方が主流です。
もうひとつ押さえておきたいのが、「私たちが見る爆発は過去の出来事」だという点です。距離が数百光年あるため、仮に明日ベテルギウスの超新星が空に現れたとしても、それは数百年前に実際の爆発が起きていたということになります。つまり、今心配しても、もうとっくに終わっているか、まだかなり先かのどちらかという、スケールの違う世界の話なのです。
「今にも爆発」の見出しとどう向き合うか
今回の伴星シワルハのニュースや、過去の大きな減光の話題をきっかけに、「ベテルギウス超新星爆発が迫る」といった見出しの記事や動画が次々と登場しました。その中には、詳細を読むときちんと長期的なタイムスケールに触れているものもあれば、タイトルだけ見るとあたかも数年以内に起きるかのような印象を与えるものもあります。
実際、ある人は「ベテルギウス超新星爆発」というタイトルを見て慌てて調べたところ、「10万年以内という意味だったのか」と肩の力が抜けた、といった感想を残していました。宇宙のニュースは、私たちの日常感覚とは桁違いの時間の話をしていることが多いので、見出しの強い言葉だけで判断しない姿勢が大事になります。
不安を感じたときこそ、国立天文台や宇宙機関、専門誌など、一次情報に近い解説を確認する習慣を持つと安心につながります。ベテルギウスについても、天文学者たちは長年にわたって観測とモデル計算を続けており、「いつかは爆発するが、私たちの世代がそれを見られるかはかなり運任せ」という冷静なスタンスをとっています。
一方で、今回の伴星シワルハの研究が示しているのは、宇宙がどれだけ複雑でダイナミックかということです。巨大な恒星のすぐそばを、まだ若い小さな星がブレスレットのように回り、その軌跡が光の揺らぎとして私たちの目に届いている。そう考えると、ベテルギウスを見上げる楽しみは、単なる「いつ爆発するか」というスリルだけではないはずです。
心配しすぎるよりも、冬の大三角を見つけて「あれがベテルギウスか」と楽しむ方が有意義なのだ。

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